ボカロMV制作のやり方|イラストレーターとのコラボとチーム制作

はじめに

前回の記事では、ミックスとマスタリングについて書きました。ボーカルとオケのバランスを整えて、音圧を仕上げて、2mixが完成。でも、ボカロ曲はここで終わりではありません。

ボカロ文化において、MVは楽曲と切り離せない存在です。ニコニコ動画やYouTubeに投稿するとき、映像があるかないかで聴いてもらえる確率がまったく違う。世界観を視覚的に伝えるMVは、楽曲の魅力を何倍にも引き上げてくれます。

DangoProjectでは、イラスト・MVをりたさんに担当してもらっています。この記事では、りたさんとの実際の連携の流れと、チーム制作でクリエイターとどう繋がっていったかを書いていきます。


MVの役割を考える

世界観を視覚で届ける

2記事目で書いた通り、DangoProjectの曲作りは世界観から始まります。テンポ、メロディ、歌詞、すべてが世界観に紐づいている。MVもその一部です。

聴く人が再生ボタンを押した瞬間、最初に目に入るのは映像です。その1枚のイラストや色使いで「この曲はこういう世界なんだ」と直感的に伝わる。作曲者として頭の中にある世界観を、映像という形で共有できるのがMVの力です。

MVのスタイルは様々

ボカロMVにはいろいろなスタイルがあります。フルアニメーションのMVもあれば、1枚絵+歌詞表示のシンプルなものもある。動画師が手がけるモーショングラフィクスもあれば、イラストをスライドショー的に見せるものもある。

大事なのは、自分の楽曲の世界観に合ったスタイルを選ぶこと。凝った映像が正義とは限りません。シンプルな1枚絵でも、世界観にぴったり合っていれば十分に楽曲の魅力を引き出せます。


りたさんとのMV制作の流れ

DangoProjectのイラスト・MVはりたさんが担当してくれています。りたさんとは、ニコニコ動画のイベント「ボカウォッチ楽曲祭」をきっかけに知り合いました。イベントを通じた出会いから制作パートナーになるという流れは、まさにこの記事の後半で書くコラボ相手の見つけ方そのものです。

りたさんのX:

ここでは、実際にどんな流れで制作を進めているかを紹介します。

ステップ1:パワポでラフ案を作る

楽曲のデモがある程度形になった段階で、まずパワーポイントでMVのラフ案を作ります。

ラフ案に入れるのは、曲の世界観の説明、イメージする色味や雰囲気、MVの構成案(どのタイミングでどんな映像にしたいか)、参考になりそうなイメージなどです。絵が描けなくても、言葉とレイアウトで「こういう感じにしたい」を伝えることはできます。

パワポを使う理由は、ページ単位で構成を見せやすいことと、テキストと画像を自由に配置できること。スライド1枚が1シーンのイメージに対応するように作ると、全体の流れが一目でわかります。

ステップ2:デモ音源と一緒に共有する

ラフ案と一緒に、デモ段階の楽曲も共有します。完成した音源ではなく、まだ作り込み途中のデモです。

これが重要で、イラストレーターに曲を聴いてもらうことで、僕が言葉で説明しきれないニュアンスも音から汲み取ってもらえます。「この曲のこのサビの盛り上がりに合うイラストが欲しい」と言うよりも、実際にサビを聴いてもらう方がずっと伝わる。

データのやり取りは基本的にGoogle Driveで行っています。最初のパワポのラフ案を共有する際には、Discordのボイスチャット(VC)で口頭説明の場を設けます。テキストだけでは伝わりにくい世界観のニュアンスや、イラストの方向性に対する温度感は、直接話した方がずっと伝わる。「なんとなくこういう雰囲気」を言語化しきれない部分こそ、VCで補うようにしています。

その後の音源、歌詞、ラフ、完成データの共有はDiscordのチャットとGoogle Driveを併用しています。進捗の報告や軽いフィードバックはDiscordのチャットで、ファイルの受け渡しはGoogle Driveで、という使い分けです。

ステップ3:イラスト制作とやり取り

ラフ案をベースに、りたさんがイラストの制作に入ります。ラフ→線画→着色という流れで進み、各段階で確認のやり取りをします。

ここで大事にしているのは、「任せるところは任せる」ということ。世界観やイメージはしっかり伝えますが、絵の表現そのものはりたさんのセンスに委ねています。作曲者がイラストの細部まで口を出しすぎると、イラストレーターの個性が活きない。

信頼して任せた上で、方向性がずれていると感じた時だけフィードバックを返す。このバランスが、チーム制作で一番重要なところだと思います。

実際、僕とりたさんの間ではリテイク(やり直し)がほとんど発生しません。これは、任せる領域をしっかり分業していることと、不明点があればDiscordで事前にしっかり意思疎通しているからだと思います。最初のVCでの説明で世界観を共有し、わからないことはその場で確認し合う。この「始める前に揃える」工程を丁寧にやることで、制作に入ってからの手戻りがなくなります。

周りのクリエイターからは、リテイク絡みでお金のトラブルになったという話も聞きます。「何回まで修正OK」「追加修正は別料金」といった取り決めが曖昧なまま進めてしまい、関係が壊れるケースです。こうしたトラブルを防ぐためにも、依頼の段階で認識をしっかり揃えておくことが大切です。リテイクを減らす一番の方法は、そもそもリテイクが必要にならないくらい丁寧に共有すること。パワポのラフ案もVCでの説明も、そのためにやっています。

ステップ4:映像化と仕上げ

イラストが完成したら、それをMVとして映像化します。歌詞のタイミング合わせ、トランジション(場面転換)、エフェクトなど、静止画を動画にする工程です。

実は僕自身もPremiere ProやAfter Effectsの使い方を勉強して、動画制作ができるくらいにはなっています。ただ、やってみてわかったのは、動画制作には多大な時間がかかるということ。1本のMVを仕上げるのに何日もかかり、その間は音楽制作が完全に止まってしまう。

社会人として限られた時間の中で、動画制作に時間を使うべきか、音楽制作に集中すべきか。考えた結果、動画制作は外注して音楽制作に割く時間を増やすという判断をしました。自分でできるからこそ、「ここは任せた方がいい」という判断ができた。これもチーム制作の強みだと思います。


チーム制作というスタイル

DangoProjectのチーム構成

1記事目でも紹介しましたが、DangoProjectはチーム制作です。

  • 作曲・ギター:だんご(僕)
  • 作詞:shigek0ng(共作)
  • ベース:フラペ
  • ドラム:デンジン
  • イラスト・MV:りた

演奏メンバーはバンド時代からの繋がりです。アニソンカバーバンドとして一緒に活動していた仲間が、ボカロ制作でもチームとして動いています。りたさんはボカウォッチ楽曲祭で知り合い、ボカロPとして活動する中で出会った仲間です。バンド時代の繋がりとネット上での出会い、両方からチームが生まれています。

なぜチームで作るのか

ボカロPは一人で全工程をこなす人も多いですが、僕はチーム制作を選んでいます。理由はシンプルで、それぞれの得意分野を活かした方が、クオリティもスピードも上がるからです。

社会人としてフルタイムで働きながら制作しているので、全工程を一人でやるとどうしても時間が足りない。作曲とギターに集中して、他のパートは信頼できるメンバーに任せる。この分業制があるからこそ、コンスタントに曲をリリースし続けられています。

もちろん、一人で全部やることに価値がないわけではありません。一人で完結できるのもボカロPの魅力のひとつ。ただ、「全部自分でやらなきゃ」と思い込む必要はないということは伝えたいです。


コラボ相手の見つけ方

「チームで作りたいけど、周りにクリエイターがいない」という人もいると思います。僕がバンド時代の仲間とチームを組めたのは運が良かった部分もありますが、それ以外のクリエイターとの繋がりは、すべてネット上で生まれたものです。

ピアプロを活用する

ボカロ曲を作るのであれば、一番コラボしやすいのがピアプロ(piapro)です。クリプトン・フューチャー・メディアが運営するクリエイター向けの投稿・コラボレーションプラットフォームで、イラスト、音楽、歌詞などを投稿しているクリエイターが集まっています。

ピアプロにはコラボ機能があり、「MVのイラストを描いてくれる方を探しています」といった募集をかけることができます。ボカロ文化に理解のあるクリエイターが多いので、世界観の共有がスムーズ。相手もボカロ作品に関わりたいという意欲を持って参加しているため、マッチングの精度が高いのが特徴です。

ボカコレ・ニコニコ経由

1記事目でも書きましたが、ボカコレはクリエイターと繋がる絶好の機会です。

ボカコレには全曲チェッカーという文化があり、参加者同士がお互いの曲を聴き合います。この相互リスニングの中で「この人の曲好きだな」「この人の絵いいな」と思ったら、自然と交流が始まる。

僕もボカコレで繋がったクリエイターの方々と今も仲良くさせてもらっています。イベントに参加すること自体が、人脈作りの第一歩です。

X(Twitter)で声をかける

もうひとつの方法が、X(Twitter)で直接声をかけることです。

気になるイラストレーターや動画師の作品を見かけたら、まずは純粋にファンとして感想を伝える。いきなり「MV描いてください」ではなく、相手の作品に対するリスペクトを示すことが先です。その上で、自分の活動や楽曲も知ってもらい、お互いの方向性が合いそうだと感じたら依頼の相談をする。

いきなり大きな依頼をするのではなく、アイコンやちょっとしたカットイラストなど、小さなお願いから始めるのもひとつの手です。

依頼時に気をつけること

クリエイターに依頼する際に気をつけているのは、以下のことです。

報酬の話は最初に明確にする。無償か有償か、有償ならいくらか。ここを曖昧にすると関係が壊れます。相手の時間と技術に対する敬意として、できる範囲で報酬を用意するのが理想です。

締め切りには余裕を持つ。特にボカコレに合わせて制作する場合、MVの完成が投稿直前になりがちです。イラストレーターにも自分の生活やスケジュールがあるので、余裕を持った依頼を心がけています。

世界観を共有する。前述のパワポラフ案のように、頭の中のイメージを言語化・視覚化して伝える努力を惜しまない。「いい感じにお願いします」は依頼ではなく丸投げです。


一人で作る場合のMV

チーム制作の話をたくさん書きましたが、最初から仲間がいる必要はありません。一人でMVを作る選択肢もあります。

シンプルな構成で十分

最初のMVは、1枚のイラスト(自分で描く、フリー素材を使うなど)+歌詞表示でも十分です。世界観が伝わるイラストが1枚あれば、楽曲の魅力は届きます。

動画編集ソフトは無料のものでも十分に使えます。歌詞をタイミングに合わせて表示するだけでも、聴く人の体験はかなり変わります。

MVなしで投稿するのもあり

極論を言えば、MVがなくても曲は投稿できます。ニコニコ動画にもYouTubeにも、静止画1枚で投稿されている楽曲はたくさんある。MVの制作に時間をかけすぎて曲を出せないよりは、シンプルでもいいから世に出す方がずっと大事です。

MVのクオリティは、曲を出し続ける中で少しずつ上げていけばいい。


AI生成動画について

MV制作の話をする上で、今の時代に避けて通れないテーマがあります。AI生成の動画やイラストをMVに使うことについてです。

僕のスタンス

正直に言うと、世界観さえ合っていれば、MVにおいてAI生成に頼ること自体はそれほど問題ではないと思っています。

ただ、現実としてAI生成のイラストや動画に対して忌避感を持つ方はまだまだ多い。特にイラストレーターや動画師として活動しているクリエイターの中には、AIによる画像生成に対して強い懸念を持っている方もいます。その気持ちは理解できます。

僕がりたさんに依頼してMVを制作してもらっているのは、多くの人に楽曲を届けたいということ、そして1から自分の世界観を表現したいという2つの理由からです。AIではなく人に依頼することで、世界観を共有しながら一緒に作り上げていくプロセス自体に価値があると感じています。

AIを使っていないわけではない

とはいえ、僕自身は制作工程でAIをまったく使っていないわけではありません。マスタリングではAIマスタリングツールを活用していますし、調声ではSynthesizer VやVOCALOID6のAI機能による自動補正に助けられています。

つまり、「AIは一切ダメ」という立場ではない。大事なのは、自分が何のためにAIを使うのか、どこに自分の意志を込めるのかという信念を持つことだと思います。

「とりあえずAIで楽に済ませよう」と「AIの力を借りて、自分の世界観をより良く表現しよう」は、同じAI活用でも意味がまったく違う。信念を持ってAIを使うこと。これが、今の時代にクリエイターとして向き合うべき姿勢ではないかと考えています。


おわりに

MVは楽曲の世界観を視覚的に届ける大切な要素ですが、完璧を目指して曲を出せなくなるのは本末転倒です。最初はシンプルでいい。仲間がいなくても出せる。

でも、もし「この人と一緒に作りたい」と思えるクリエイターに出会えたら、思い切って声をかけてみてください。僕はバンド時代の仲間とチームを組み、ボカコレやXを通じて新しい繋がりも得ることができました。一人では見えなかった景色が、チームで作ることで広がります。

次回は、完成した楽曲をどう届けるか。投稿先の選び方、ボカコレでの戦い方、SNS発信のコツについて書いていきます。


感想・質問はお気軽に!

この記事を読んで気になったこと、聞いてみたいことがあれば、ぜひ教えてください。

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DangoProject
ボカロP / ギタリスト / ノベルゲーム制作者(社会人兼業クリエイター)

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