はじめに
前回の記事では、歌ってみたの全体像と「まず出すことがゴール」という話をしました。
今回は機材と録音環境について書きます。
正直に言うと、機材の話は沼です。調べれば調べるほど「あれも欲しい、これも必要かも」となって、気づいたら何も録れていない——そういう人を何人も見てきました。この記事の目的は「最低限これがあれば始められる」を明確にすることです。
なお、ギタリストとして実感していることなのですが、どれだけエフェクターで音を加工しても、結局はギター本体からどれだけ良い音が出ているかが仕上がりを左右します。MIXも同じで、送る音源の質は最終的な仕上がりに直結します。
必要な機材3点セット
歌ってみたの録音に最低限必要なものは3つです。
マイク
録音の入口。コンデンサーマイクが定番です。
AT2020(Audio-Technica)などは入門機として名前が挙がりやすく、価格と音質のバランスがいい。コンデンサーマイクは繊細な音を拾えるかわりに、部屋の反響や生活音も一緒に拾います。「録音環境を整える」こととセットで考える必要があります(後述)。
私も失敗することがあるのですが、よくエアコンをつけたままにして録音してしまい音が入り込んでしまうことがあります。今はRXなどのプラグインで環境音を除去できるようになっているのですが、昔は夏場のレコーディングは汗を大量に流しながら録音していましたね。。
防音環境が整いにくい場合はダイナミックマイク(SM58など)も選択肢です。コンデンサーに比べて環境ノイズを拾いにくく、扱いやすい。音の繊細さは劣りますが、MIX次第で十分な仕上がりになります。
私が歌ってみたを録る場合はSENNHEISER e945を使っています。
RODE K2というコンデンサーマイクも持ってはいるのですが、自分レベルで使うには……と二の足を踏んでいます。アコースティックギターを録る場合に大活躍しています!
オーディオインターフェース(AI)
マイクとPCをつなぐための機器です。スマホ録音なら省略できる場合もありますが、PCで録るならほぼ必須と思ってください。
私はMOTU M2を使っています。
入門向けの定番としては、FocusriteのScarlettシリーズもよく名前が挙がります。
購入前に「このマイクとこのAIは接続できるか」を確認しておくと安心です(XLR端子のマイクにはXLR対応AIが必要)。ダイナミックマイクの場合は気にする必要はないですがコンデンサーマイクを繋ぐ場合はファンタム電源が付いているかも確認しておいたほうが良いですね。
また、配信者に必須のAIFとして人気のAG03MK2でも歌ってみたは録れます。
DAW(録音ソフト)
録音・編集・書き出しができるソフトです。凝った打ち込みは不要なので、基本機能が使えれば十分。
- GarageBand ― Mac無料。はじめの一歩として十分
- Audacity ― Windows/Mac無料。シンプルで使いやすい
- Studio One Prime ― 無料版あり。将来的に自分でMIXしたくなったときに拡張しやすい
私はMacのLogic Proを使っていますが有料でかなり高いのでおすすめはしません。
カラオケ音源(オケ)を入手する
機材が揃ったら、次に必要なのは歌う曲のカラオケ音源(オケ)です。録音する前に用意しておかないと始まりません。
ピアプロから入手する
ボカロPが公式にオケを配布している場合、ピアプロにアップされていることが多いです。まず歌いたい曲のページやボカロPのプロフィールを確認しましょう。
ボカロPから直接もらう
ピアプロに配布がない場合は、ボカロP本人に連絡して許可とオケを同時にお願いする方法があります。「警報のあった日」を歌ったときは、ニコニコ動画の歌ってみた企画でステムを共有していただけたのでDAW上でMIXまで自分でできました。こういった企画や直接のやり取りで入手できるケースもあります。
ボカロPへの連絡マナーについては#04で詳しく書いています。
自分で作る
ボカロP経験があってDAW操作に慣れている場合、オケを自作するという選択肢もあります。「ブレイバーン」のときは自分でオケを作りました。ハードルは高いですが、自由度は一番高い方法です。
録音環境を整える ― 機材より大事なこと
実は機材より先に考えるべきなのが「録る場所」です。
部屋の響きを消す
コンデンサーマイクで録ると、部屋の反響(残響)が乗ります。これが多すぎると、MIX師さんが後から処理しにくい素材になってしまう。逆に言えば、部屋の響きを抑えるだけで音質は格段に上がります。
手軽にできる対策:
- クローゼットの中で録る ― 服が吸音材になる。定番中の定番
- 布団をかぶって録る ― 見た目はともかく、効果は抜群
- 壁に毛布・厚手のカーテンをかける ― 反射面を減らす
私は防音室があるので参考にはなりませんが、Voレコーディングするときはリハーサルスタジオを借りて録音していました。ボーカルレコーディングパックなどで小さい部屋を長時間安価でレンタルできるところもあるのでおすすめです。
環境ノイズを消す
エアコン・換気扇・PCのファン音は、マイクが敏感に拾います。録音前に切れるものは全部切る。どうしても消せないノイズがある場合は、MIX師さんに事前に伝えておくと対応してもらいやすいです。
そんなに神経質にならなくてもよいのでは?と思うかもしれませんがMIXする側にとっては大事な要素になります。小さい音は大きくしないといけないのですが、その時に環境音も一緒に大きくなってしまいます。RXなどのツールでも音質改善できますが、最初から入っていないほうが望ましいですね。
録音するときの基本設定
録音レベルの目安
DAWのレベルメーターが-12dBから-6dBあたりに収まるよう調整するのが基本です。音が大きすぎてメーターが0dBを超えると「クリップ(音割れ)」が起きます。クリップした音はMIXでも直せないので、少し低めに設定しておくほうが安全です。
書き出し形式
MIX依頼時に渡すファイルはWAV形式、44.1kHz/16bit以上が標準です。MP3は圧縮による劣化があるので避けましょう。
テイクは多めに録る
一発でうまく歌おうとしなくていい。サビだけ5回録って、一番いいテイクを使う ― それで十分です。MIX師さんも「テイクが多いほど助かる」という人がほとんどです。
ガイドメロディ(オケ)をイヤホンで聴きながら録るとき、マイクにオケの音が漏れないよう気をつけましょう。音が漏れると後処理が難しくなります。
昨今はコーラスはメインVoからMelodyneを使って生成できることもあって主流ではないですがMIX師さんと相談して録音する必要があるかは確認すると良いですね。あとダブリングという手法もあってメインのボーカルを単純に複数ライン録ることになります。単純に音が厚くなるのでおすすめです。こちらもMIX師さんと相談しましょう。
よくある失敗と対策
「録ってみたら部屋の響きがひどかった」
→ クローゼット録音を試す。それだけで別物になることが多い。
「レベルが低すぎて音が小さい」
→ AIのゲインノブを上げる。ただしノイズも一緒に増えるので、上げすぎない。
「ピッチが不安で何テイクも録り続けてしまう」
→ ピッチの修正はMIXの工程でできる。完璧でなくていいのでまず録ることを優先。とはいえ修正は音質劣化の元となるのでズレが大きいところだけを取り直すのが良いと思います。タイミングの補正もMIX段階でできるので大丈夫です!
まとめ
- オケはピアプロ・ボカロPへの直接連絡・自作のいずれかで入手する
- マイク・オーディオインターフェース・DAWの3点セットがあれば録れる
- 機材より録音環境(吸音)が大事
- テイクは多めに、WAV形式で書き出す
次回は、録音したデータをどうやってMIX師さんに依頼するか ― 探し方・メッセージの書き方・ファイルの渡し方を書きます。
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DangoProject(だんご)― ボカロP / ギタリスト
